
History of the Timepiece
この時計は、一本の時計を通して歴史を辿る稀有な機会を提供します。
ここに紹介するのは、1925年頃に製造された、極めて希少なブランパンです。
約30mm×45mmという、当時としては異例の大きさの18Kソリッドゴールド製長方形ケースに収められており、その存在感は当時の常識を覆しています。
内部には、珍しい機構が搭載されています。ジャンピングアワー表示と、レオン・ハーウッド特許に基づく自動巻き機構です。これは、自動巻き機構における初期の、そして歴史的に重要なアプローチであり、ハーウッドによって考案されたものです。
さらにこの時計を特別なものにしているのは、その確かな鑑定記録です。
真正性を確認するため、前所有者はジュネーブ近郊のブランパン製造所を自ら訪れ、正式な鑑定を受けました。その結果、公式の証明書と記録が製造元から直接入手されています。
構造、歴史、そして鑑定――
この時計は、まさに物語を紡ぐ一点と言えるでしょう。
ハーウッド自動巻き機構の起源、その採用背景、そしてこの時計が今日に至るまでの歩みを、ぜひご堪能ください。
単に時計を所有するだけでなく、時間そのものを所有する静謐な贅沢を是非ご体験ください。

構造そのものが思想である一本。
ゼンマイへとトルクを伝える中間車と、機械を囲うケースと同サイズで設計されたフェンス。その先に接続された可動式ベースレバーが時計の上下運動と連動し内部機構をスライドさせる。ベースレバーに取り付けられたロッキングクリックと、固定されたロッキングクリックが中間車を巻き上げ、ゼンマイへと動力を伝達していく。
いわゆる“レバーアップダウン式自動巻き”と呼ばれる機構である。
さらに、このスライド部分にボールを埋め込むことで、機構は“ROLLS”と名付けられた。
この機構を開発したのはレオン・ハート。
彼は“パーペチュアルドリーム”を掲げ、1911年、わずか23歳で自社工房による時計製造を開始し、成功を収めている。
当時すでに、ジョン・ハーウッドが世界初の腕時計用自動巻き機構を開発していた。
その機構はエボーシュメーカーであるA SHIELD社との共同製造を経て、1926年にフォルティスが採用し、バーゼルにて世界初の自動巻腕時計として発表されている。その後ハーウッドは、自らの機構の生産・販売権を各社へ提供する形で展開し、1926年、圧倒的な資本力を持っていたブランパンがヨーロッパ全土の販売権を取得。自動巻きは、ブランパンによる独占的な市場へと移行していく。
そうした背景の中で、ハートの機構がブランパンにとって重要な存在となったことは自然な流れとも言える。
1929年、ハートの自動巻き機構は“ハートパテント”として特許化され、その展開はブランパンが担うこととなった。

今回ご紹介するのは、そのハートパテントによる自動巻き機構を搭載した個体である。
本来レディースサイズとして開発された機構を、ブランパンとの共同開発によりメンズサイズへと展開した極めて希少な一本。現在、世界市場において確認できる個体は存在していない。
特筆すべきはジャンピングアワー機構である。
アワーホイールとミニッツホイールに数字盤を備えたカウンター式表示となっており、一般的な針は存在しない。時間は分表示の進行に伴い切り替わり、おおよそ40分付近から次の時間へと移行するその挙動は、この機構特有の魅力といえる。
また、本機は完全自動巻き仕様であり、ハーウッド同様にリューズは存在しない。
時間調整はケースを開閉し、内部に設けられたギザ状のレバーを指で回すことで行う。通常であればケース開閉に伴う塵の侵入が懸念されるが、ハート式の根幹であるフェンス構造により、レバー周辺以外に外部からの侵入経路はほぼ存在しない計算された構造である。
しかしこのハート式自動巻きは、やがてハーウッド式の普及に押され、その歴史の中から姿を消していった。

本個体は18金無垢のレクタンギュラーケース。
当時としては異例とも言える、約30mm × 45mmの大型サイズを持ち、その存在感はロレックス プリンスをも上回るワイドなプロポーションを備える。
重量感のある18金無垢ケース、ジャンピングアワー、そしてハート式自動巻きという希少機構。それらすべてが一体となった個体である。文字盤を含め、全て当時の状態を保っている。


さらに本個体については、その真偽性を確認するため、前オーナーがジュネーブ近郊の地図にも掲載されていない工場へ直接訪問し調査を実施した。
電車で約2時間、そこから徒歩1時間という立地にあるその工場にて直接依頼を行い、後日正式な回答として、本個体が真正であること、ならびにオーバーホールが可能であることの確認を得ている。
また、現地においても同様の個体は確認されておらず、初見であったとの証言が得られている。
それに伴う証明書及びアーカイブをBLANCPAIN本社が発行し本品と同梱されている。
現存確認が極めて困難な一本。
構造、歴史、そして検証過程を含め、一つの完成されたストーリーを持つ個体である。